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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)2241号 判決 1960年10月15日

原告 盛川康

右訴訟代理人弁護士 池田清治

被告 柳沢昇

被告 株式会社 新生ランドリー

右代表者代表取締役 尾崎泰山

右被告等訴訟代理人弁護士 岡部勇二

被告柳沢補助参加人 東武信用金庫

右代表者代表理事 高野義武

右訴訟代理人弁護士 平山国弘

同 浅川勝重

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

本件明渡を求むる土地が原告の所有であり、昭和二八年三月一日、被告柳沢は原告から右土地を原告主張の約定(但し賃料支払の時期原告主張の特約の点を除く)をもつて賃借し、同地上に本件建物を所有するものであること、及び右土地の賃貸料は、原、被告合意の上逐次値上げし、昭和三二年一月以降一ヶ月金二、一三六円と定められて継続し来つたものであることについては当事者間に争がない。原告は右賃料の支払方法に関し、本件土地賃貸借契約成立の頭初において、毎月月末払と定めて継続し来り、昭和三三年当時においてもなお、月末払であつた旨主張するに対し、被告柳沢は、同賃料は昭和三〇年一月から年一回の年末払に改められていたものであるとしてこれを争うので、この点につき判断するに、成立に争のない乙第一ないし乙第三号証によれば昭和三〇年より昭和三二年に至るまではいずれも各年度の一年分の賃料としてまとめて当該年度の年末に支払つていた事実が認められ、また成立に争のない乙第四号証によれば原告は昭和三三年度分の賃料についても年末に一年分の賃料をまとめて請求している事実が認められ、右各事実に被告本人尋問の結果を合わせ考えれば右賃料の支払方法は昭和三〇年度分からは毎年末の一度払の慣行となり原告もこれに対して昭和三三年末に至るまで何等の異議を述べなかつたことを認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果は採用しない。右認定事実によると本件賃料の支払方法に関し、毎月末日払から年末一回払に改めるについて原、被告間に明示の合意があつたとはいえないにしても、昭和三〇年頃より原告の黙示の同意を得て年末払に改められて継続し来つたものであり昭和三三年当時においては、年一回の年末払の方法にしたがつていたものと解するのが相当である。このようにして本件賃料支払方法に関する原告の毎月末日払の主張は採用できない。

原告は昭和三三年度分の賃料について数回に亘つて支払を督促したと主張し被告は昭和三三年一二月半ば過ぎ頃に督促されたことを認めているけれども前認定の事実関係の本件では原告主張にかかる同年度内の催告は原告が意図した各月の延滞賃料の催告としては意味をなさず、昭和三三年度の一年分の賃料をその支払期たる年末に遅滞なく支払うよう催告したにとどまる結果となり、それを以て直に解除の前提としての催告の効力を持つとは解されない。次に被告は前記催告を受けた後被告の妻が原告方に赴き、賃料支払の猶予を求めたのに対し、原告の承諾があつたとして、原告主張の賃料不払の事実を争うのであるが被告本人尋問の結果にてらしても原告から右支払猶予の承諾が得られなかつたことは明白であるので、昭和三三年度分の賃料が少くとも同年年末までには支払われなかつたことについては当事者間に争がないのであるから被告は昭和三三年度分の賃料について、形式的には一応遅滞に陥つたものと謂うべきである。

次に原告は、昭和三四年一月六日に本件土地賃貸借契約解除の意思表示をなし、翌七日当該意思表示が被告に到達したことについては、当事者間に争はない。

被告は催告なしの右解約の意思表示の効力を争うが成立に争ない甲第一号証によると原告主張の特約がなされていることを認めることができるので被告の催告のないことを理由とする解除の無効の主張は採用できない。

しかしながら成立に争ない乙第七号証の一ないし五、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると原告の昭和三二年一二月下旬の賃料支払の催告に対して当時被告は旅行不在中であつたので被告の妻がその旨を原告に伝え支払の猶予を乞うたこと、原告は当時本件土地の明渡を受けてこれを有利に利用する意思があつたので被告の妻の猶予の申入にかかわらずその後被告の帰宅等を確めることもなく、前認定の特約に基いて昭和三四年一月六日直に解除の意思表示をなしたものであることを認めることができる。

建物所有を目的とする土地の賃貸関係のようなその賃借人が特別の保護を受けている継続的な債権関係についてはたとえ賃借人に債務不履行の事実があつたとしてもその不履行の理由、程度を考慮し、些細な不履行のみを理由に直に解除しうると解するのは適当でない。

本件のように年一回の年末払の賃料支払を僅かに七日間怠つたに過ぎず、しかもこの七日間は、一般に取引も非常に少ない正月の七日間であること、及び前認定の事実関係にある本件のばあいは、これをもつて直に本件土地賃貸借契約の継続を不可能とする程の履行遅滞があつたと断定することは適当でなく、原告主張のような特約があつたにしても原告の右解除の意思表示は無効と解するのを相当と考える。

尤もこの解約通知の後も被告は昭和三三年度分の賃料の支払をなさなかつたのであるが、成立に争ない乙第六号証、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると被告はこのように一旦契約解除の通知を受けた以上、原告は弁護士でもあり、以前にも二回ほど本件土地について争を提起されたことがある等の過去の経験にかんがみて、又原告は本件土地にビル建築の計画をもち、被告が旅行中で賃料延滞の可能性を知悉し乍らその不払を希望しつつ催促をしたものと考え、被告が原告方に賃料を持参しても原告はその受領を拒否するものと思つて(被告は三月上旬頃帰宅したものである)支払を延ばしており、昭和三四年三月末に本訴を受けて調停が行われたが不調となつたのでその後になつてから昭和三三、四年度の賃料を供託するに至つたことを認めることができる。

右のような場合被告が解除の通知を受領した後も賃料不払のまま相当の期間が経過したという事実のみによつて原告の本件土地賃貸借契約解除の効力を生ずると解することも妥当でない。

その他に右認定を覆して原告の本件解除を有効と解すべき事実を認めるに足る証拠はない。そうだとすると被告柳沢について、本件土地の賃借権の存続が認められ、昭和三三年度の賃料について延滞ないものと解すべきでありまた被告会社が本件建物を被告柳沢から賃借している事実は成立に争ない甲第三号証及び被告本人尋問の結果により明白である以上被告会社の本件土地占有が右の正当な権原に基くものであることもまた自ら明らかである。

よつて原告の請求はいずれも理由がなく、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 石田哲一)

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